VOICE 9
水谷 大地
解析評価技術開発部
「プレーヤーの感性に関わる部分にこだわりました」
—水谷さんのお仕事はどういうものですか?
ボールの評価という仕事に2018年から携わっています。スピンやボール初速といった性能面ではなく、打感や「乗り感」の評価ですね。物理的な性能というよりも、ゴルファーの感性に関わる性能を評価しています。人に打ってもらって評価してもらうだけでなく、機械的に数値化して計測するということもします。
—感覚的なものを評価するのは難しそうですね
たしかにそうですね。人が感じた感覚を機械的に、数値で表現できるようには様々な実験が必要になります。
—具体的には、どんなプロセスをたどるのですか
様々なプレーヤーのスイングを直接見ることから始まります。性能の異なる何種類ものプロトタイプを実際に打っていただき、「これは良いね」、「これはダメだね」と評価していただきます。そのボールに対して、例えばショット時のスロー映像でどのようなボールの挙動をするかなどを分析し、プレーヤーの評価結果と分析結果を結びつけて感覚を数値化します。
そうやって、好みも異なる様々なプロに打ってもらうなかで、共通して評価の高いボールが出てきます。その評価の高いボールを研究所で様々な測定装置で性能を数値化して、その高評価の要因を見出し、よりそれを高めたボールを作っていくというプロセスになります。このようにしてより高性能なボールが出来上がっていきます。
—前作22年モデルは「乗り感」、今回はさらに「ディープ感」がコンセプトになりました
それは22年モデルの開発時からタイガー・ウッズに言われていた課題でもありました。当初は、スピン量であるとか、そういうボールの基本性能の部分かと思ったのですが、 そういう物理的な性能と言うよりも、むしろフィーリング面でのリクエストでした。
ヒアリングしていく中で、タイガーからは「ディープ感」とは音のことだという指摘がありました。クリッキーな音があまり好みではなくて、ディープな打音のほうが好きだという言及があったのです。
そこで音を測ってみようということになりまして。プロトタイプの中で、タイガーが気に入っているボール、気に入っていないボールをそれぞれウェッジで打ち、その打音を計測しました。
そしてその波形音のデータから、ここが違うというところを客観的な測定値として把握することが出来ました。
—具体的に「ディープ感」とは、どんな打音のことを言うのでしょうか?
ピンポイントでこういう音とは言えないのですが。「ディープ感」の逆の打音をタイガーは、クリッキーと表現しています。それは高くて金属的な音なのですが、新しい24年モデルは、その高い音を抑えた打音にすることで、「ディープ感」を生んでいます。
—タイガー・ウッズの好みに合わせたボールを作ることで、他のプロたちの好みから外れることはないのでしょうか。例えば、高い打音が好みの選手もいるのでは?
過去に遡って言うと、もともとブリヂストンの契約プロたちは、「ディープ感」のある音を好んでいたという経緯があります。今回の開発でも多くのプロたちにも、カツっと高い音の出るボールもテストしてもらったのですが、好みじゃないと言う選手がほとんどでした。
例えば、吉田優利選手はしっかりとした打音と手応えを好む選手なのですが、そんな彼女でさえ、カツっと高い音が好みなわけではなく、あくまでもインパクトでの大きめの打音が欲しいタイプなのです。
—クリッキーな高い打音は、プロたちにはあまり好まれないんですね
高い打音が強いと、どのプロも弾く、滑るといったスピンがかからないようなイメージを持つようです。
音はしっかりしているけど、ディープな音がよりプレーヤーのイメージにマッチするはずです。
おかげさまで、前作の22年モデルの評価が非常に高く、プロから要望をヒヤリングしても、本当に満足していて、直したいところがないという意見がとても多かったのです。プロだけでなく一般ユーザーからも大きな支持を受けていました。
これだけ評価されているボールなので、フルショットでの打音はなるべく変わらないように、アプローチに関しては前作よりも少しディープな方向になったことでアプローチではスピンがよりかかりそうなイメージが湧くボールになりました。
—ここまで緻密に開発されて生まれた新しい『TOUR B X/XS』ボールですが、今後はどういう進化をしていくのでしょうか?
今回、タイガーからリクエストがあったように、プロから課題をいただいて、その課題を解決することでより良いボールを作るというプロセスで開発を進めてきました。
ですが、新しい『TOUR B X/XS』ボールは、さらにこうしてほしいという要望は今のところほとんど上がってきていないんです。完璧なボールといっても良いんじゃないかと思えるほど、そのくらい完成度の高いボールができました。
だから、今後は具体的なところはまだお話できませんが、感覚的な部分まで含めてさらに向上させて、性能的にもより飛んで止まるボールを追求していきたいと思っています。
PROFILE
水谷 大地 プロフィール
2016年入社 技術開発室で解析を担当する
過去にはゴルフボールだけでなく、クラブ、ゴルフシューズの性能評価も実施。現在はツアーボールTOUR B X/XSやJGRでプロゴルファーや一般ゴルファーに試作品の試打を行い、商品へフィードバックをする。プロからの信頼も厚い。